ウィーンの中心から電車で20分程度離れたところに、1871年に作られたウィーン中央墓地(Wiener Zentralfriedhof)があります。一時期はヨーロッパ最大の墓地だったこともあり、今でも世界有数の埋葬数を誇る墓地です。
ウィーンは「音楽の都」の名にふさわしく、数々の有名な音楽家が生まれ、そして人生の幕を閉じた場所です。そのため、数々の音楽家の遺体がウィーン中央墓地に埋葬されています。その中でも『運命』や第九など数々の名曲で知られるベートーヴェン、『魔王』で知られるシューベルトや主に『ハンガリー舞曲』の作曲家ブラームスは瞠目に値します。
また、墓地中央にある1911年に完成した聖カール・ボロメウス霊園教会は、ユーゲント・シュティールという芸術様式で少し変わったデザインの教会です。教会や建築に興味があるならより行ってみる価値があります。
気温も落ち着いてすっかり秋らしくなって、週末に足を運んでみたのでレポートを書きます。
営業時間
執筆時点(2024年9月22日)では、3月から10月は8時から17時、11月から2月は8時から16時になっています。
特に12月は日の入りが早く、16時でも十分暗いので早めに来園することをおすすめします。
トラム71番線でウィーン中央墓地へ
ウィーン国立歌劇場の最寄り駅であるカールスプラッツ(Karlsplatz)駅から71番線トラムに乗って、ウィーン中央墓地の最寄りである中央墓地2番門駅に行きました。
グーグルマップだとなぜか中央墓地の東寄りの第3門で降りるように案内されたのですが、中央門である第2門が、墓地内に入っても主要なところを楽に回れるのでおすすめです。こちらはトラムから降りたところです。
背に墓地があるのですが、ウィーンの中心から離れているので周りは非常に閑散としています。真っ暗になったら雰囲気は良くなさそうだと感じました。そして、トラム駅の目の前に花屋さんがあり、ぼちぼち人がいました。
この花屋さんの隣に入口があります。シェーンブルン宮殿の入口に似ている気がしました。
日曜日の15時頃に訪れたのですが、ぽつぽつ人がいる程度で、全く混んでいません。
墓地に入ってみる
さっそく墓地に入ってみます。中央門にあたる第2門に入ったため、墓地の中央にそびえ立つ聖カール・ボロメウス霊園教会が一直線に見られます。墓地内ですが、普通に車が通るので歩道を歩くことをおすすめします。
私が訪れた日は全く見かけなかったのですが、フィアカー(馬車)に乗ることもできるみたいです。4人乗りの馬車で、30分65ユーロぐらいらしいです。
どんどん教会に向かって歩いていきます。道中、左右両脇にたくさんの墓があります。運が良ければ、鹿やリスなどの動物に遭遇できるそうです。冬支度をするリスでもいるかなと期待をしていましたが見つけられませんでした。
このような脇道になっていて、墓がひたすらありました。とても広いです。
聖カール・ボロメウス霊園教会
墓地の中央には、ユーゲント・シュティールという芸術様式である聖カール・ボロメウス霊園教会がそびえ立ちます。第2門から入って、この教会までゆっくり歩いて10分程度でした。
ユーゲント・シュティールとは、クリムトなどで知られる世紀末美術の傾向の一つで、日本語だと「青春様式」と表現されることがあります。「ユーゲント」とは、ドイツ語で若さを意味します。特徴としては、アール・ヌーヴォーのように動植物や女性をモチーフにした装飾豊かな有機的で、全体的にまとまりと統一感のあります。
マックス・へーゲレという建築家によって設計され、1911年に完成しましと。この教会は「時間と永遠」を表現しているそうで、似たような概念がある古代エジプトからキリスト教まで、いろんな要素を織り交ぜられています。
実際に入ってみると、頭上には美しい星空が描かれた天井があります。これはエジプト神話での神の現存を示すシンボルで、古代エジプトでミイラに代表されるように、死後の世界で命が続くと考えられていたためモチーフが取り入れられています。
象徴的な3枚の絵画
正面には『EGO SVM RESVRRECTIO ET VITA(私は復活であり、命である)』(ヨハネによる福音書 11章25節)の一節が書かれており、教会の主題である「時間と永遠」の部分を強調しています。
正面に3つの絵画があり、右の絵では、ウィーンボナ(ラテン語での「ウィーン」)として女性に擬人化して、完成したばかりの聖カール・ボロメウス霊園教会を天使に差し出しています。そして隣にいる男が、「美男のカール」で知られるウィーン市長のカール・ルエーガー(Karl Lueger)であり、この教会の建設を政治的に携わった人です。また彼自身もこの墓地に埋葬されています。天使は、神がこの教会を快く受け入れてくれるように祈っているように天を見つめています。
左の絵は、ひざまずく天使が時間の流れを表す砂時計を持っています。そして、「死」を連想させる鎌や頭蓋骨などが描かれる一方で、こちらを向く天使は、消えかける松明を持っています。これは「傷ついた葦を折ることなく、くすぶる灯心を消すことなく、彼は正義を勝利に導く。」(マタイ12章20節)を表現したものであり、神は死んでしまった命であっても神のもとでは生き続けることを表現しています。
中央の絵では先程の左の絵の続きを表現していて、死後キリストのもとに行っています。
巡礼者を表す帽子に、聖ヤコブのシンボルであるホタテ貝が付けられており、キリストの関連付けがなされています。世界遺産である巡礼の聖地のスペイン・サンチャゴ・デ・コンポステラにもホタテ貝が街中で多く見られます。
上部の天使は、神の祝福のシンボルであり、先程のマタイの一節の「勝利」を示すシェロの枝を授けようとしており、つまり、死んだ命であっても永遠に生き続けることを示しています。
また、キリストは正面を見ながら両手を大きく広げており、これはキリストは誰でも受け入れるという深い愛と慈悲を表しています。
ステンドガラス
直線的な幾何学模様もその特徴の一つであるユーゲント・シュティールならではの、ステンドガラスが見られます。
キリストが、両手をあげて祈っていますが、両肘を垂直に曲げていて少し堅い感じに見えます。
ヨーロッパのいろんな教会に行ったことがありますが、このような教会は珍しいです。
名音楽家の墓
聖カール・ボロメウス霊園教会と第2門のちょうど真ん中の、教会を背にして右側の区間に名音楽家の墓が密集しています。これは、作曲家区間(区間32A)として意図的に密集して埋葬されています。もしかしたら、観光客が集まっていることも多いのですぐわかるかもしれません。
中央の道からすぐわかるところに、ベートーベンの墓があります。
この墓地に埋葬されている他の墓と規模感は変わらず、どっちかというと、質素な印象を受けました。また、その目の前には、モーツァルトの記念碑があります(墓ではありません)。
また、少し周り込んだところに、ヨハン・シュトラウスやブラームスの墓もあります。
ブラームスのように献花されている墓もありますが、ほんとに気持ち程度で、あまり花などを持ってくる人はいないようです。また、これだけではなく、以下の音楽家の墓もあります。
- フランツ・シューベルト:代表作『魔王』など
- フランツ・フォン・スッペ:代表作『詩人と農夫』など
- フーゴ・ヴォルフ:代表作『炎の騎士』など
ぜひ、いろんな名音楽家の墓を探してみてください。